ティツィアーノ・ヴェチェッリオ
製作年 1533年頃
パラティーナ美術館(イタリア、フィレンツェ、ピッティ宮殿内)蔵
フィレンツェ・アルノ川の西岸にあり、ウフィツィ美術館からはヴァザーリの回廊でつながっています。
屋根付きの回廊はヴェッキオ橋を渡り有名な景観を見せています。
ピッティ宮殿は約一万点の作品所蔵数を誇り宮殿内の6つの美術館・博物館のうち、絵画を中心とした展示を行っているのがパラティーナ美術館です。
長い髪と左下の香油壺からマクダラのマリアと分かります。
ティツィアーノは90歳まで生き、この後にもマクダラのマリアを2枚残していますが、教会の規定が変わり着衣像に変わっています。

天を仰ぎ観て目に涙を浮かねべ、自分の過去を懺悔しています。
娼婦だった過去やその他の罪をイエスによる赦され、処刑の際に足を自らの長い髪で香油を塗り清めました。
イエスが埋葬された墓に行き、香油を塗ろうとしましたが墓に遺体は無く復活されたことを感じました。
ふと声をかけられイエスに触れようとしますが天に登るところで触れてはならぬと言われます。使徒に復活を告げるよう言われます。
使徒に復活を告げる役割を得た特別な使徒とされています。
マグダラのマリアは、イエス・キリストが亡くなった後も布教を続け、フランスの海岸のサント・ボームの洞窟で苦しい修行と瞑想に明け暮れる日々を30年間過ごしたとの伝説があり、それに基づいて懺悔に暮れるマクダラを本作は描いています。
多くの修行者が厳しい勤めを果たすことで、特別な役割を担うことが出来るようになる奇跡として教えられ多くの修行僧の目標とされました。
また、娼婦を集めた修道院もヨーロッパ各地に建てられました。
詐欺師の絵を描いたラ・トールも洞窟でのマグダラのマリアの黙想を描いています。
ルーブル美術館
メトロポリタン美術館
さて、後で書くように福音書の中でマグダラのマリアと明記している部分は多くありません。
10世紀頃、マグダラのマリアを称揚する架空の物語が、特にフランスで広まり絵のモチーフ懺悔のマクダラが描かれました。
伝説では、マグダラのマリアとラザロと数人の信者は、キリスト教への迫害がはじまりエルサレムから、布教しながらフランス・マルセーユに移りプロヴァンスで宣教をした。
この伝説によるとマグダラのマリアは、エクサンプロヴァンスあるいはサント・マキシムで亡くなり、遺体はヴェズレーに移されたとしています。

しかし、福音書に記されたマクダラのマリアを記したとされる部分はとても少なく
ルカ8,2
イエスにつき従い自分たちの持ち物を出して奉仕した婦人たちの中にマグダラのマリアがいました。彼女の名はマリアと呼ばれ、ギリシャ語でタリケアと呼ばれるマグダラという町の出身でした。

ルカ8,2;マルコ16,9
イエスは彼女から7つの悪霊を追い出しました

マルコ15,40-41等
共観福音書は、彼女がイエスが十字架につけられるのを遠くから見守り

マルコ15,47
イエスが埋葬されるのを見つめ、そして墓の方を向いて座っていた婦人たちの中で一番重要な人物として語っています。

マルコ16,1-7等
週の初めの日、朝早くマグダラのマリアと他の婦人たちは買ったばかりの香料を持ってイエスの体に油を塗るために墓に戻りました。

マルコ16,1-7等
そこで、一人の天使が彼女たちに、イエスは復活したのでこのことを他の弟子たちに伝えるよう依頼しました。

ヨハネ19,25
マグダラのマリアは、聖母マリアと一緒に十字架のそばにいました。

ヨハネ20,1-2
週の初めの日、朝早くまだ暗いうちにマグダラのマリアは墓に行きました。そして、墓から石が取りのけてあるのを見ました。そこで、誰かがイエスの体を取り去ったと思い、ペトロに告げに行きました。

ヨハネ20,11-18
墓に戻り泣いていると、イエスが立っているのが見え、イエスは父である神のところに戻ることを弟子たちに告げるようマリアに言いました

マグダラのマリアは、福音書に登場する他の女性と同一視されていきます。
大聖グレゴリオ教皇の見解から、下記の三人の女性を同一視する考えが広まりました。
福音書に登場する女性は、教えの象徴とだからマグダラのマリア一体であるとしました。
6~7世紀頃からラテン教会では、マグダラのマリアは、
ルカ7,36-50
シモンの家でイエスの足を涙で濡らし香油を塗った罪深い女性とする傾向がありました②

一部の教父や教会の著述家は、この罪深い女性を、
ヨハネ12,1-11
ベタニアでイエスの頭に香油を塗ったラザロの姉妹マリアであると考えました①

マタイ26,6等
(マリアの名前は出てこず)一人の女性が重い皮膚病を患ったシモンの家でイエスに塗油を行ったと語っています()。

①ヨハネ12,2-3には、ラザロの姉妹マリアとマグダラのマリアと同一視できる資料は示されていません。
②ルカ7,36-49には、登場する罪深い女性をマグダラのマリアと同一視できる資料は示されていません。
単に イエスがその女性をゆるされた直後に、イエスに奉仕する幾人かの女性について述べており、ルカ8,2には、その中に七つの悪霊を追い出していただいたマグダラのマリアもいたと書かれています。
更に、ルカ7,47には、イエスはその罪深い女性を「この人が多くの罪が赦されたことは、わたしに示した愛の大きさで分かる」と、称賛。

これらの記述から、罪深い女性とマグダラのマリアを同じ女性として考えるようになったのではないか。

大きな罪、七つの悪霊が娼婦だった事を指すとするのは無理があるようです。
教会が課す厳しい修行を積み重ねれば得られる境地として、求められたアイコン。
画家にとって重要なパトロンである教会の意を汲み、罪を悔い改めることで奇跡を得られる物語を具象化したと思います。